ユーコさん勝手におしゃべり

5月17日
 季節をさかのぼる旅をする。
 北上する高速道路にのって、埼玉を抜け、群馬に向かう。実り豊かな小麦畑と、田植えのはじまった田んぼの中を走る。
 富岡で高速を降りて、榛名神社へ。峠を登ってゆくにつれ、準備中の田んぼが増え、田植えに向けて畦道の草刈りをする人が見える。
 車を駐車場に止めて、榛名神社の山門から涼しげな川沿いの山道を登ってゆく。
 その日東京は25度を超えて夏日になったが、榛名山はまだ春のよそおいで、本殿までの坂道も快適だった。矢立杉の立派さに心が躍る。樹齢600年、人も含めて、いろんな動物を、黙って見てきたのだろう。巨木に会うと、耳を近づけて話を聞いてみたくなる。
 お参りをして、山から榛名湖に降りると、満開の八重桜が湖畔をいろどっていた。
 伊香保温泉で一泊して、翌朝、前橋の敷島バラ園で春バラまつりの眼福を得た。ぐんまこどもの国へも足を延ばしてハイキングを楽しみ、群馬満喫の二日間を過ごした。
 夕刻に帰宅後、パソコンをひらくと、現実が一気に押し寄せる。
 ありがたいことに、二日を空けてもお客様との縁は途切れず、たくさんの本が出番を待っていた。
 はい。また新たな気持ちで、一歩ずつ励みます。
 翌朝、自転車で買い物に出ると、よそ様の庭でビワの実がもう色づきはじめていた。
 ボーっと人のまつりを眺めているうち、自分の店の前にも、菖蒲まつりの提灯が飾られていた。5月も後半、菖蒲が咲きそろうと、早今年も折り返しなのだなあ。

5月12日
 ある夕方、アスターの葉のてっぺんにテントウムシの幼虫が動かずにいるのを見た。
 翌朝、淡いオレンジ色のできたてのさなぎになっていた。店の前に置いてあるプランターの上なので、通るたび目に入る。だんだん色が濃くなり、テントウムシの橙色と黒になっていく。観察が毎日の楽しみになった。

5月11日
 自転車に乗って、堀切から浅草橋まで、店舗用品の買い物に行く。
 堀切橋で荒川を渡り、汐入大橋から隅田川を下って隅田公園から街へ出る。ここから浅草橋までは、どこもお祭り気分だ。
 5月初めから6月あたままで、毎週どこかの神社で例祭がある。ふだんでもにぎやかな浅草界隈に祭りのポスターが貼られ、レンタル着物のインバウンド観光客にまじって、本物のはっぴ姿の人々がゆきかっていた。
 浅草橋は紅白マロニエまつり開催中だった。パレードの喧噪を抜け、いつもと変わらぬ店で買い物をして、いつものとんかつ屋さんでお昼を食べた。
 帰り道は、スカイツリー方面へ出て、たばこと塩の博物館で、「浮世絵でめぐる隅田川の名所」展を観た。
 変わったところと変わらぬところ。思ったより来館者も少なくて、おもしろくゆったり見られた。
 人は、人の集まるところばかりに集まりたいものなのだろうか。

5月3日
 ジャスミンが咲き揃いゴールデンウイークがやってきた。
 ハニーサックルが咲き始めると、風薫る五月の到来だ。
 今や春はあふれかえり、二か月前には春を探して歩いていた道は、初夏へと進みだしている。
 雨の朝、上野の東京国立博物館へ、「蔦屋重三郎展」と「浮世絵現代展」を観にでかけた。
 博物館の門を入ると、正面にあるシンボルツリーのユリノキに花が咲いていた。そのどっしりとした太い幹からは思いもよらない可憐な花だ。枝いっぱいに黄色と赤の混じった炎のような花が乗っていた。満開に立ち会えるのは何年かぶりで、この貴重な出会いにカメラを向けた。
 展覧会は二会場とも充実の作品群と展示で、目も頭も足もフル回転だった。
 すっかり興奮した心身は、甘味処みはし本店で癒す。店のウィンドウに「若桃のクリームあんみつ」の表示があって、疲れは一気に吹き飛んだ。この季節にしか出会えない特別な一品である。実は去年は食べそこなって、今年こそ時を外すまいと秘かに願っていたのだ。
 若桃のクリームあんみつに白玉を追加して注文する。実によい一日だった。
 シャキシャキの若桃、今年もう一回くらい、食べられるといいな。
 

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